「ブラック・ライブズ・マターとデモクラシーの危機」を読んで

「ブラック・ライブズ・マターとデモクラシーの危機」を読んで

2022年2月 日印サルボダヤ交友会発行「サルボダヤ」誌に掲載された文章を転載いたします。
この文章は、親しくさせて頂いている(当時)エカード大学 山﨑千恵子先生(現在 ミシガン州立大学連合日本センター)による「ブラック・ライブ・マターとデモクラシーの危機」というアカデミックな論文に対する感想文が掲載されたものです。
 まさかこんな形で公開となるとは思っていなかったもので、山崎先生の論文に較べたら恥ずかしい限りですが、今の地方議会の実態があまりにも「デモクラシー」という言葉に合わないと感じたので、そんな思いを表現したつもりです。
よかったらお読みください。

北海道・伊達から「ブラック・ライブズ・マターとデモクラシーの危機」を読んで

小久保 重孝

 デモクラシーが根付いていない日本の話、興味深く拝読いたました。拝読し、少しは反発すべきなのかも知れませんが、納得するしかなく、日本は時間をかけても米国のようなデモクラシーは育たないのではないかとさえ思えてきます。
 人口約33000人の伊達市に18人の議員がいます。
選挙で当選さえすれば年収にして約500万円の報酬を受け取ることができます。町の経済人たちは、市議会は稼げなくなった奴がいくところだと言って、馬鹿にしています。

 私は反発し、少しでも市民の役に立つ議会にしたいと立候補しました。あれから19年が経過、私の発言は誰よりも議事録のページを割きましたが、市民の役に立つ議会になったかは、まだまだ十分果たせていないと反省しています。多くの地方議員が議員の役割を理解せず、その責務を果たしていません。それでも地縁血縁によって、上位当選を果たし、連続当選します。これがこの伊達市だけのことではなく、全国的な傾向であることを私たち国民はもっと深刻に受け止めるべきだと思います。

 なぜ、何もしない議員が選挙に勝てるのか。それは市民がその活動を知ろうとしない。有権者にとって議員は、自分の知り合いであればそれでよく「どんなことをしているのかわからないけど、いい人だから、仕事もしているはずだ」と思い込んでいる人もあれば、「あいつが仕事なんてできるはずないけど、悪い奴ではないから入れている」という人もいます。
 「どんなことをしているか」は全戸配布される議会広報で少しはわかるはずですし、地方新聞に掲載されることもある。ネット環境を持っていれば、Youtubeで動画を見ることもできるし、議事録の全文検索もできる。
 結局、選挙というお祭りには参加するけど、その後の議会活動は、自分が不利益になるかも知れないという事案以外は、全く興味がないという人が大半だと言うことです。

 不利益になるかも知れないとして市民が動いた事案として思い出されるのは、伊達火力発電所です。もう50年以上前の話ですが、伊達市に火力発電所ができることになって、反対運動が起きて、市長室が占拠されたり、議会が傍聴者によって妨害されたりという事件がありました。私が移住するずっと前の話で、左翼の人たちの扇動があったようですが、多くの市民が決起したと言う点では、市にとっては大きな出来事だったのではと思います。
今はその発電所のおかげで仕事になっている市民も多く、市にとっても税と水道料金は大きな財源となっています。

 最近では、市が近隣自治体と合併する時に「伊達市」の名称を変えることとなると、「伊達市」の名称を残せとする署名が人口の半分以上集まり、残すことになったことがありました。この時、機動力になったのは、「伊達家」に先祖を持つ70歳以上の高齢者たちの、ルーツを蔑ろにするなという声でした。

 住宅地に風力発電が建設されることになったケースでは、近隣住民が騒音などの影響を心配して議会に請願書を提出。これに議会も同意して、事業者を撤退させたこともありました。この時の機動力は騒音という不利益を被るかも知れない地域の住民でした。

日本は戦後70年以上が経過して、制度が整い、インフラも整備され、豊かな時代になった中で、政治の役割は大きく変わったと思います。変わったというより、時代に合わせて政治に求められる役割は変化すると言ったほうがマッチするのかも知れません。それに対応した仕組みとしての国会も地方議会も変革が必要で、そのモデルを海外のデモクラシー先進国に学ぶべきなのかも知れません。

 映画「新聞記者」という作品が話題になりました。実名など固有名詞は変えていますが、森友学園という新しい学校建設をめぐり近畿財務局で自殺者が出た事件をベースとして、政治と行政の問題にメスを入れる新聞記者の活躍と苦悩を描いています。いかに安倍政権が忖度の上で運営されていたかがわかるのですが、結局野党はその問題で迫りながらも、政権交代どころか、議席を増やすことすらできませんでした。この問題を巡る一連の政治、行政、メディア、国民の動きを検証すれば、今の日本の問題がはっきりすると思いますし、解決策もわかるかもしれない。
 でもまた忘れてしまうのでしょうね。日本人は。
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